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シンポジウム「ウクライナ戦争が問うアジア冷戦史の現代的意義 ―中華人民共和国をめぐる国際関係の歴史と現在」

3 月 18 日(土)
13:45-17:45 シンポジウム
ウクライナ戦争が問うアジア冷戦史の現代的意義
―中華人民共和国をめぐる国際関係の歴史と現在

 ロシアによるウクライナ侵攻は、第二次世界大戦以後、とりわけ冷戦終焉後、アメリカが主導して形成してきた自由民主主義的国際秩序に権威主義国が包摂されておらず、軍事的に衝突する可能性さえあることを改めて浮き彫りにした。こうした事態の発生により、ロシアと同じ権威主義の大国であり、しかもロシアとは桁違いの生産力と技術力を持つ中華人民共和国(以下、中国)の行動、特に軍事力によって「台湾統一」を強行することに対して懸念が生じている。しかし、ヨーロッパにおけるロシアと東アジアにおける中国の立場やふるまいを、単に「権威主義体制である」という共通項にのみ基づいて同質のものとして捉えてよいだろうか。というのも、ロシアと中国はともにアメリカと鋭く対立しながらも、直接の軍事衝突があったか否かということや、多国間の国際機関・制度を形成したか否かという点で、異なった冷戦史・ポスト冷戦史を歩んできたからである。
 ヨーロッパとその周辺地域では、1940 年代後半からの冷戦体制確立期から解体まで、アメリカ(NATO)とソ連との間では間接的にも軍事衝突はなかった。アメリカとロシアが間接的に軍事衝突するようになったのはむしろ冷戦終結後である。NATO は 1999 年にコソボ紛争に武力介入し、ユーゴスラビア連邦共和国軍を排除した。シリア内戦でもロシアの支援するアサド政権とアメリカなど西側諸国が後援する反政府勢力とが対峙している。NATO と EU 加盟国の拡大は、それに挑戦するという口実をロシアに与えてしまい(その成否はひとまず措くとして)、今回のウクライナ侵攻を招いてしまったと言える。
 一方アジア(東アジア)では、1950 年代初頭の冷戦体制確立期に中国とアメリカは朝鮮半島で直接軍事衝突し、さらに 1960 年代にはベトナムで間接的に軍事衝突した。しかしニクソンショックを契機とする米中和解やベトナム戦争の処理を通じて1970年代に力の均衡が実現し、米中両国間の関係が正常化したあとは、朝鮮半島と台湾海峡で厳しい緊張が続いてはいるものの、今日に至るまで軍事的な衝突は発生していない。またこの地域にはアメリカを中心にした二国間同盟網は存在しているが、冷戦終焉後、NATO のように同盟範囲を拡大してきたわけではない。
 では、このような冷戦期におけるヨーロッパと東アジアそれぞれの国際関係における分岐、とりわけロシアと中国の分岐はなぜ起こったのだろうか。またこのような分岐は何を意味するのだろうか。アメリカにとって、ロシアと中国の位置づけはそもそも違ったのだろうか。それともどこかの時点で両国に異なった位置づけが与えられたのだろうか。このように歴史的な視座から冷戦史を振り返ることは、ウクライナ戦争とそれ以降の世界のゆくえを考えるうえで必須である。本シンポジウムでは、冷戦確立期からその解体期、さらに米中対立が顕在化している今日までを視野に入れ、アメリカの対中戦略、中国の対米戦略の変遷と「現在」、そして展望を改めて捉えなおしてみたい。その際には、特に台湾をめぐる米中の駆け引きが、議論の焦点の一つとなろう。
 以上の目的のため、本シンポジウムでは以下の 3 名のパネラーにご登壇いただくことにした。それぞれのパネラーの報告タイトルは以下のとおりである(報告順)。

藤木剛康氏(和歌山大学)「ウクライナ戦争と米中対立――3 つの世界と米中の秩序構想」

松村史紀会員(宇都宮大学)「中ソ関係からみたアジア冷戦―外部援助と自力更生の間」(仮題)

福田円氏(法政大学)「米中国交正常化と台湾-新たな『台湾問題』のはじまり」(仮題)

 藤木氏には、米中関係の現在と未来、特に中国の国際戦略と、そうした中国の国際戦略に対するアメリカの認識と対応について、最新の国際関係論の成果を踏まえて「現在」の全体像を展望していただく。
 松村会員には、冷戦史とポスト冷戦の時代の国際関係、とりわけアメリカ・中国・ソ連(ロシア)の関係について、歴史的な視座からその展開を捉え直していただく。
 福田氏には、1940 年代末から今日に至るまで米中間の争点であり続けている「台湾問題」について、両国がこの問題をどのように位置づけてきたのか、また今後の両大国の戦略の中でどのように位置づけられようとしているのかについて論じていただく。
 また本シンポジウムは、このように主に国際関係論・国際関係史の立場から米中関係の来し方行く末を展望しようとするものであるが、両国の関係をより立体的に捉えようとすれば、経済的な視野から米中関係の構造や両国がそれぞれ描いている戦略がどのように捉えられるのかについても理解する必要があるだろう。
 梶谷懐会員には討論者として、経済的な視座から報告を批判していただく。
 このように重厚な陣容で開かれる本シンポジウムは、変化が激しく既存の枠組みでは認識し難い「現在」の世界を、歴史的な視座から捉えようとする試みである。会員諸氏による活発な議論を期待したい。

by yukiko_sakaida | 2023-02-07 15:39 | 月例会・総会案内
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